2013年03月03日
傷だらけの子供たち【第五話 砕け散った心】
私が問題を抱えていそうな子どもに過敏に反応してしまうのはワケがある。
もう気付いている方も多いとは思うが、記憶がある限り、私自身が小さな頃から虐待と放置(ネグレクト)を繰り返し受けて育ってきたからだ。
家庭内で起こる「特定の人間からの継続した虐待」と、養護施設や教護院などで日常的に繰り広げられる「不特定多数の人間からの終わりなき虐待」と、私は両方を経験している。
「いつ敵の襲来があるかわからない状況に置かれた子ども」
というのは、常に怯え、神経を張り詰め、気持ちの休まるときがないという戦場で闘っているような日常を送っている。
長くその状況を経験してきたものにだけ解る、「匂い」がある。
このことについては、またいつか触れることもあるかもしれない。
リサは、ネグレクト(適切な養育を受けていない)と、通常の?肉体的精神的な虐待環境にあるのでは・・・?と確信に近い思いを持っていたこどもだったのだ。そう・・・2年半の間ずっと・・・
そうであって欲しくはない、という思いもあった。
こんなことは勘違いであって欲しい、とも思ったりもしたが、悲しいことにこういったカンは、まず外れたことはない。
*******************続き****************
リサの母親は、喚くようにグチを言い出した。
リサの盗癖は、幼い頃からだったようで、家のお金をくすねるなどは序の口で、親戚の家に行ったとき、ほんの一瞬の間にさまざまなものを盗むということが、どんなに叱っても、どんなにキツイ制裁を加えても、収まることはなかったのだと・・・・。
リサの母親が考え出した解決策(と言えるのかどうか?)は、わりと厳しい塾にリサを入れて、遊ぶ時間を与えない、お小遣いは欲しいといった文だけ与える、だそうだ・・・・。
「欲しいものはなんでも買ってやって、小遣いだってあげてるのにこいつは・・・!!」
と何度も何度も言っていたが、それは解決策でもなんでもないだろ。
私はこういう人間のパフォーマンスはしらけるし、グチを聞く義理もないのだが、あまりにもリサの母親が想像通りだったことに驚き、ついつい状況に流されるままでいた。およそ2時間ほど・・(笑)
リサは何も言わず、ずっとうつむいていた。
私はうつむくリサのつむじあたりをじっと見つめて、リサはどう思っているんだろう、どう感じているんだろう?とふと思い、話しかけてみた。
「リサちゃん、うそをつくのは心が痛いでしょう?どうしてここまでうそをつかなきゃいけなかったのか、考えたことはある?」
リサは、黙って返事をしなかった。
何も応えないリサの代わりに、長女が怒鳴った。
「こいつが痛みなんて感じるわけないじゃん!あたしが高校も行かないで毎日働いて、こいつの塾代や小遣いのために色々ガマンしてんのに!こいつは何一つ不自由ない生活をしてるのに!!!」
・・長女は長女なりの鬱積したものがあるのだろう。
我が家の長女も、次女と5歳も離れているので似た様な事を私に向かって吐きつけることがある。が、今は問題点はそこではない。
私は長女にも向かって言った。
「あんたにはあんたの人生がある。思い通りの人生を選ぶ権利がある。でも、リサは、リサの人生を生きるために生まれてきたんであって、親やあんたたちを満足させるために生きてんじゃないんだよ。勘違いすんな」
長女は黙ったが、母親はまだグチグチと自分がリサのためにどれだけ肩身の狭い思いをしたか、どれほど苦労しているか、を語っていた。
警官が私に、「どうしますか?」と聞いてきた。
リサの母親も、
「どうすれば許してもらえますか・・?」
と言ってきたが、まだ謝罪の言葉をリサからも、リサの母親からも聞いていない。それを指摘しようかどうかを迷ったが、言わなかった。
「謝ってください」といって口先だけの謝罪などいらなかった。そんなもので解決はしない、ということを知っていた。
私はまず、すがるような思いを込めて、リサの手を握り締めて話しかけた。
「リサちゃん、おばさんはとても悲しい。○○(次女)も悲しくてたまらないよ。○○は最後まで、リサがそんなことするはずがないって信じてたんだよ!リサのこと、ずっと友だちだと思ってたから。私たちの悲しい気持ち、わかる?わかってほしいよ、大切な人に裏切られた気持ちを・・」
リサはぷるぷると小刻みに震えだし、顔を上げて一つぶだけ涙を流した。
「私・・・・・もう直らないんです!少年院でも警察でもどこでも行きます!私は死んだ方がいいんです!もう生きていたくない!」
リサは叫んで、頭を抱えてうずくまった。
わずか11歳の子どもに、「生きていたくない!」とまで言わせる母親。
その母親は
「こいつはもう山奥の施設か少年院にブチこんで、一生出られないようにするしかないないと言う。
「もう二度と○○ちゃんとは遊ばせませんので、家にも行かせませんのでどうか許してください。お願いします」
リサの母親と、祖母が頭を下げた。
「二度と遊ばせないとか対症療法でなく、根本的な解決を私は望みます。どうしてこんなことをしてしまうのか、専門家に相談してみるとか・・・。とにかくめんどくさがらずにリサちゃんと家族の皆で話し合って欲しいです」
私は精一杯思うことをその場では言ってみた。
しかし、数時間見ていて、リサの母親や姉たちの様子から、居場所がなくグレることもできない中途半端なリサの存在が見えてきたような気がした。
ふと後ろを振り向くと、今までに見たことのないような悲しそうな顔をした次女が、呆然と立ち尽くしていた。
次女は、最後までリサを信じていたかった、一番の被害者である。
いつもノー天気な次女の、あんなにも悲しそうな顔を見たのは、そのときが初めてだった・・・・。
続く・・・・

もう気付いている方も多いとは思うが、記憶がある限り、私自身が小さな頃から虐待と放置(ネグレクト)を繰り返し受けて育ってきたからだ。
家庭内で起こる「特定の人間からの継続した虐待」と、養護施設や教護院などで日常的に繰り広げられる「不特定多数の人間からの終わりなき虐待」と、私は両方を経験している。
「いつ敵の襲来があるかわからない状況に置かれた子ども」
というのは、常に怯え、神経を張り詰め、気持ちの休まるときがないという戦場で闘っているような日常を送っている。
長くその状況を経験してきたものにだけ解る、「匂い」がある。
このことについては、またいつか触れることもあるかもしれない。
リサは、ネグレクト(適切な養育を受けていない)と、通常の?肉体的精神的な虐待環境にあるのでは・・・?と確信に近い思いを持っていたこどもだったのだ。そう・・・2年半の間ずっと・・・
そうであって欲しくはない、という思いもあった。
こんなことは勘違いであって欲しい、とも思ったりもしたが、悲しいことにこういったカンは、まず外れたことはない。
*******************続き****************
リサの母親は、喚くようにグチを言い出した。
リサの盗癖は、幼い頃からだったようで、家のお金をくすねるなどは序の口で、親戚の家に行ったとき、ほんの一瞬の間にさまざまなものを盗むということが、どんなに叱っても、どんなにキツイ制裁を加えても、収まることはなかったのだと・・・・。
リサの母親が考え出した解決策(と言えるのかどうか?)は、わりと厳しい塾にリサを入れて、遊ぶ時間を与えない、お小遣いは欲しいといった文だけ与える、だそうだ・・・・。
「欲しいものはなんでも買ってやって、小遣いだってあげてるのにこいつは・・・!!」
と何度も何度も言っていたが、それは解決策でもなんでもないだろ。
私はこういう人間のパフォーマンスはしらけるし、グチを聞く義理もないのだが、あまりにもリサの母親が想像通りだったことに驚き、ついつい状況に流されるままでいた。およそ2時間ほど・・(笑)
リサは何も言わず、ずっとうつむいていた。
私はうつむくリサのつむじあたりをじっと見つめて、リサはどう思っているんだろう、どう感じているんだろう?とふと思い、話しかけてみた。
「リサちゃん、うそをつくのは心が痛いでしょう?どうしてここまでうそをつかなきゃいけなかったのか、考えたことはある?」
リサは、黙って返事をしなかった。
何も応えないリサの代わりに、長女が怒鳴った。
「こいつが痛みなんて感じるわけないじゃん!あたしが高校も行かないで毎日働いて、こいつの塾代や小遣いのために色々ガマンしてんのに!こいつは何一つ不自由ない生活をしてるのに!!!」
・・長女は長女なりの鬱積したものがあるのだろう。
我が家の長女も、次女と5歳も離れているので似た様な事を私に向かって吐きつけることがある。が、今は問題点はそこではない。
私は長女にも向かって言った。
「あんたにはあんたの人生がある。思い通りの人生を選ぶ権利がある。でも、リサは、リサの人生を生きるために生まれてきたんであって、親やあんたたちを満足させるために生きてんじゃないんだよ。勘違いすんな」
長女は黙ったが、母親はまだグチグチと自分がリサのためにどれだけ肩身の狭い思いをしたか、どれほど苦労しているか、を語っていた。
警官が私に、「どうしますか?」と聞いてきた。
リサの母親も、
「どうすれば許してもらえますか・・?」
と言ってきたが、まだ謝罪の言葉をリサからも、リサの母親からも聞いていない。それを指摘しようかどうかを迷ったが、言わなかった。
「謝ってください」といって口先だけの謝罪などいらなかった。そんなもので解決はしない、ということを知っていた。
私はまず、すがるような思いを込めて、リサの手を握り締めて話しかけた。
「リサちゃん、おばさんはとても悲しい。○○(次女)も悲しくてたまらないよ。○○は最後まで、リサがそんなことするはずがないって信じてたんだよ!リサのこと、ずっと友だちだと思ってたから。私たちの悲しい気持ち、わかる?わかってほしいよ、大切な人に裏切られた気持ちを・・」
リサはぷるぷると小刻みに震えだし、顔を上げて一つぶだけ涙を流した。
「私・・・・・もう直らないんです!少年院でも警察でもどこでも行きます!私は死んだ方がいいんです!もう生きていたくない!」
リサは叫んで、頭を抱えてうずくまった。
わずか11歳の子どもに、「生きていたくない!」とまで言わせる母親。
その母親は
「こいつはもう山奥の施設か少年院にブチこんで、一生出られないようにするしかないないと言う。
「もう二度と○○ちゃんとは遊ばせませんので、家にも行かせませんのでどうか許してください。お願いします」
リサの母親と、祖母が頭を下げた。
「二度と遊ばせないとか対症療法でなく、根本的な解決を私は望みます。どうしてこんなことをしてしまうのか、専門家に相談してみるとか・・・。とにかくめんどくさがらずにリサちゃんと家族の皆で話し合って欲しいです」
私は精一杯思うことをその場では言ってみた。
しかし、数時間見ていて、リサの母親や姉たちの様子から、居場所がなくグレることもできない中途半端なリサの存在が見えてきたような気がした。
ふと後ろを振り向くと、今までに見たことのないような悲しそうな顔をした次女が、呆然と立ち尽くしていた。
次女は、最後までリサを信じていたかった、一番の被害者である。
いつもノー天気な次女の、あんなにも悲しそうな顔を見たのは、そのときが初めてだった・・・・。
続く・・・・

Posted by 阿部由明 at 20:26│Comments(0)
│【実話】傷だらけの子供たち
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