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2013年03月03日

傷だらけの子供たち【最終話 次女の傷】

わずか11歳の少女が、


「わたしはもう生きていたくない!」


と、叫ぶ姿を見て、ふだん波風の少ない私の心はちくりと痛んだ。


私自身は、壮絶な虐待を受けている渦中に、声を上げることも泣くこともできなかったし、声を上げてもムダだと知っていたのでしようともしなかった。
毎朝目が覚めるたびに生きていることに絶望し、少しでも早く、静かに、自分の今の人生が終わる日を夢見て、ただうつむいて何も見ずに、何も感じないまま、人形のように日常を送っていた。


数十年もの間、月が出ていることにすら気付かずに生きてきた。


リサにはまだ、声を上げる力が残っている。
声を上げることさえしなくなってしまってからでは遅いのだ。
どうにかしてリサの母親が、そのことに気付いてくれないだろうか・・?


「こいつは・・・・・上の2人に比べてさんざん甘やかされて育ってきたくせに、問題ばっかり起こす、本当にこいつさえいなかったら・・って家族の皆が思ってるのに」


「こんなやつはもううちの子じゃない!出てけ!死ね!」


リサの母親は、リサやわたし達親子の目の前でそう吐き捨てた。


「死ねばいいんだ!」と、何度も何度も、言った。


あああぁぁ・・・・・こういう親ってなんでこうも皆同じようなリアクションばかりするんだろう・・・・はぁ・・・しらけるなぁ・・・・
普段から罵詈雑言吐かれまくっている様子が目に浮かぶ・・・。




悲しいけれど・・・・私は専門家でもなんでもない。
何もできないのだ。
継続して関っていくことのできる子どもとは繋がりを途切れさせないようにすることができるが、強制する力がない。
出来ることと出来ないことの境界線を持っていないと、私自身が引きずられてしまって、ふだんの生活がままならなくなってしまう。通常の日常生活をいつもどおりに送る、ということが、私には非常に困難なことなのだ。


リサの母親や姉たちは、自己満足のために働き、金銭を与えているということに気付こうともしない、認めたくないのだろう。
リサが本当に求めているのはなんなのか、を考えようともしない。


完璧な母親なんてどこにもいない。
私はきっと、他人だからこそ、リサの目に見えない傷に気付いてしまったのだと思う。傷は様々なかたちで現れるが、まだこういった問題行動を起こすうちは解りやすく、救いがある。


母親だから、身内だから子どものことを理解している、なんてのは単なる幻想で思いあがりでしかないと私は考える。だけど、子どもは自分から産まれてきた「一番近い他人」と考え、解りあうためにぶつかり合ったり、話し合ったり、試行錯誤しながら、「家族」になっていくのではないだろうか?


家庭を知らない私が思うのは、家族は最初から家族なわけではなく、いろいろな必然が重なり合って一緒に暮らすことになった人間達が、家族になろうという努力を怠らなかった者たちだけが、家族というコミュニティを築くことが出来るのではないか?と考える。
生まれたときから抱かれたことのない子どもは、他人に抱きしめられることを嫌がるように、家族になるための努力は、生まれたその日からの積み重ねであって、その家に生まれてきたというだけでは家族にはなれない。


私は、いい人ぶってこのまま終わらせるのか?
今、もっとこの問題を突き詰め、追い詰めないとリサのためにもならないんじゃないか?
数時間の間、ずっと、葛藤していた。


見たこともないくらい悲しい顔をして立ち尽くす次女・・・。


2年半もの間友だち関係だった次女を「うそつき」呼ばわりしてまでも母親にすがりつきたかったリサ・・・。


「お前なんか死んでしまえ!」というリサの母・・・。



きっと正解なんかない。
私は、私が無力で何もできない人間だと認めよう。


それぞれの立場の人間が、数年単位でそれぞれ出来ることをしていかなければ、解決できない問題にブチ当たったとき、やはり今自分が守るべき生活を最優先に選ぶしかできない。




「短期間に同じ家で数回…相当手馴れてるしあまりにもふてぶてし過ぎるな、これはほかでも同じ事やってるはず。それに全く気付かない親もどうかしてるな」


と、ベテランおっさん警察官も冷めた目で見ていた。


リサの母親は、納得できないようだった。
なんでこいつがしたことで、私が非難されなきゃいけないのか!
といった風だった。
救いようがないな・・と感じた。


「リサちゃんのしたことはれっきとした犯罪です。許せません。でも、二度と娘と遊ばせないとかそういうことでなく、根本的な解決を望みます。どうか、正面から向き合って時間をかけて話し合って欲しいと思います」


甘い、私は肝心なところで詰めが甘い!
後悔するんじゃないのか?
しかし、このときはこうしようと決めた。


リサのしたことは許されることではないけれど、この世の中にたったひとりくらいリサの味方をして、リサを抱きしめる大人がいたっていいんじゃないのか?そうでないとあまりにもリサが救われないんじゃないのか?


と、そのとき感じた。


リサの母親は、


「なんであなたは被害者なのに、リサをかばうの?」


と不思議そうに言った。



もう今の時点ではどうしようもないな・・・
数時間のやりとりを少し他人事のように見ていて感じた私は、不思議なイキモノを見るようなリサの母親と姉たちを残して、帰宅することにした。


帰り際に、リサの顔を見たが・・・
私とはもう目を合わせようとはしなかった。
でも、今はそれでいい。


「こうやって居場所のない子供たちの犯罪は増えていくんだ・・」


屋外に向かいながら、警官がつぶやいた。


呆然としている次女の手を握り、靴を履いて外に出た。
エレベーターを降りたところで、次女は激しくしゃくりあげて、声を上げて泣き出した。


「リサ・・・・友だちだったのに・・信じて・・・たのに・・


うわああぁぁぁぁぁ~~~ん」


小さな頃のように、しゃくりあげ、全身で泣き出したのだ。
友だちだと思ってた子からうそつき呼ばわりまでされ、それでもリサは泥棒じゃない!と、最後の最後まで信じていたかった次女の心の中の何かが、壊れてしまった・・。


「そうやね・・辛かったなぁ・・最後まで信じてあげてえらかったよ」


泣きじゃくる次女を思い切り抱きしめた。
次女は、天然のアホでわがままで本当に単純な子どもらしい子どもだ。
それゆえ、友だちを裏切る、などということは思いもよらなかったのだろうと思う。


「○○ちゃん(次女の名)、本当のお友だちはこれから見つかるよ」


警官たちも一生懸命なだめてくれた。


前日も私が帰宅する前までリサは遊びに来ていて、リサが帰った後、次女のお気に入りのポーチ(中身はヘアピンなどが入っていた)がなくなっていたらしい。そのポーチが、さっきリサのリュックをブチまけたときに出てきたのだ。そのことを口に出すこともできないくらい、ショックを負っていたということか・・・・・。
ここまで次女を傷つけたリサに、初めて怒りの気持ちが湧いた。


刃物を使わなくとも人の心をズタズタに傷つけることはできる。
そのことをリサは母親から教わっていなかった。


「今の自分をなんとかしたい!誰か、私を助けて!」


そんなリサの悲鳴が聞こえてきても、あの母親から逃れられない限りリサは変わることは無理だろうと感じた。乗り越えるのは自分の力、だけど、そのためのフォローをする大人がいなくてはいけない。そのための大人は、必ずしも血縁者でなくても良いが、リサをフォローしてくれる大人に出会えるとは限らない・・・。


帰宅したのは深夜1時を過ぎていた。
次女は、しゃくりあげしくしくと、本当に悲しそうになき続け、泣きつかれて私の胸の中で眠ってしまった・・・。抱きしめた次女の小さな肩が、眠りについても、ひくひくと痙攣していたのが悲しかった。




沖縄の子どもたちは、放置されている子どもが多い。
血縁が近くにいるからかもしれないが、少なくとも私の周りの子どもたちは核家族が多く、深夜まで親がいない、という子がたくさんいる。
次女は、そういう友だちを家に連れてきて、ごはんを作って食べさせたりする。私はそれを微笑ましく見ていた。
子どもは1人じゃ育てられない。地域の子どもは、地域の大人たちができる範囲でできることをすればよい。
血縁者ではなくても、自分のことを気に掛けてくれる大人がいる、と子どもが感じることができれば、それが子どもの心の居場所になるのではないか?と思うのだ。


私も沖縄に来て2年くらいは、ひたすら生活を安定させるためという理由をくっつけて、月に残業が80時間以上もあるような職場でガムシャラに働いた。それでも内地にいたときの月収の半分にもならなかった。
ふと気付いたら、子どもたちと何ヶ月も一緒に食事をしていないことに気付き、愕然とした。子供たちが二人揃ってインフルエンザで倒れたとき、私は


「こんな忙しいときに限って、なんで・・・」


と、まず仕事のことを思った。
高熱でうわごとをいうような状態の子どもたちが、


「ママ、仕事行っていいよ。ママがお仕事しなきゃ生きていけないんだもんね。大丈夫だから仕事行っていいよ・・・」


と言った。なにかが間違っているような気がした。
それをはっきり言語化はできないけれど・・・・・
私はその職場を辞めた。
甘ったれるな!社員にしてやろうと思ってたのに!と責められたが、私はお金より子どもたちと過ごす時間を選んだ。その選択は今でも間違ってないと思う。


題:親になるほど難しいことはない


というタイトルの本を随分昔に読んだことがある。
児童虐待関連の本で、フラッシュバックを起こしながらも、ボロボロになるまで何度も何度も読み返した本だった。今更ながらにその通りだなぁと心底感じる。


子どもを産んだから母親、戸籍上親と記載されているから親、だというわけではない。
絆は、作り上げていくものだと子どもを育てて初めてわかる。
家族になるために、家族であり続けるために、努力を一生続けていくことを怠ってはいけない、と強く、思った。

私は私にできる小さなことを続けながら、生きていく。





~あとがき・・・~


この事件は、2006年末~2007年初めのたった1ヵ月半の間に起こった出来事でした。この後、一ヶ月ほど体調を崩し、回復するまでに精神的にも肉体的にも辛い日々を送ることになりました。
が、人は無傷では幸せを手に入れることはできない、ということを私も次女も体感することができる出来事でした。傷つきたくない、怖い、でも、その傷を真正面から見すえなくてはならないときがあると、親として決断し、警察に訴え、リサを追い詰めることにしました。
次女の中では、「もしかしたら・・」かすかな疑念があっても、それを振り払い、見てみぬふりをし、さりげなく遠ざかる・・・そういう方法もあったかもしれませんが、若いうちは傷ついて傷ついて、もう立ち直れない!と思うくらいに傷ついてでも、貪欲に幸せを掴もうとする力をつけさせたい、との思いからこのように判断し、行動しました。
間違っているのかどうかはわかりません。
しかし、後悔はしていません。
次女が心に負った傷は深く、消えることはないだろうと思いますが、忘れてはならないのだと思います。我が身が思い切り傷ついたからこそ、初めて他人の痛みを慮ることができるようになるのだと思うからです。


  


2013年03月03日

傷だらけの子供たち【第五話 砕け散った心】

私が問題を抱えていそうな子どもに過敏に反応してしまうのはワケがある。


もう気付いている方も多いとは思うが、記憶がある限り、私自身が小さな頃から虐待と放置(ネグレクト)を繰り返し受けて育ってきたからだ。


家庭内で起こる「特定の人間からの継続した虐待」と、養護施設や教護院などで日常的に繰り広げられる「不特定多数の人間からの終わりなき虐待」と、私は両方を経験している。


「いつ敵の襲来があるかわからない状況に置かれた子ども」


というのは、常に怯え、神経を張り詰め、気持ちの休まるときがないという戦場で闘っているような日常を送っている。
長くその状況を経験してきたものにだけ解る、「匂い」がある。


このことについては、またいつか触れることもあるかもしれない。


リサは、ネグレクト(適切な養育を受けていない)と、通常の?肉体的精神的な虐待環境にあるのでは・・・?と確信に近い思いを持っていたこどもだったのだ。そう・・・2年半の間ずっと・・・


そうであって欲しくはない、という思いもあった。
こんなことは勘違いであって欲しい、とも思ったりもしたが、悲しいことにこういったカンは、まず外れたことはない。


*******************続き****************


リサの母親は、喚くようにグチを言い出した。
リサの盗癖は、幼い頃からだったようで、家のお金をくすねるなどは序の口で、親戚の家に行ったとき、ほんの一瞬の間にさまざまなものを盗むということが、どんなに叱っても、どんなにキツイ制裁を加えても、収まることはなかったのだと・・・・。


リサの母親が考え出した解決策(と言えるのかどうか?)は、わりと厳しい塾にリサを入れて、遊ぶ時間を与えない、お小遣いは欲しいといった文だけ与える、だそうだ・・・・。


「欲しいものはなんでも買ってやって、小遣いだってあげてるのにこいつは・・・!!」


と何度も何度も言っていたが、それは解決策でもなんでもないだろ。


私はこういう人間のパフォーマンスはしらけるし、グチを聞く義理もないのだが、あまりにもリサの母親が想像通りだったことに驚き、ついつい状況に流されるままでいた。およそ2時間ほど・・(笑)


リサは何も言わず、ずっとうつむいていた。
私はうつむくリサのつむじあたりをじっと見つめて、リサはどう思っているんだろう、どう感じているんだろう?とふと思い、話しかけてみた。


「リサちゃん、うそをつくのは心が痛いでしょう?どうしてここまでうそをつかなきゃいけなかったのか、考えたことはある?」


リサは、黙って返事をしなかった。
何も応えないリサの代わりに、長女が怒鳴った。


「こいつが痛みなんて感じるわけないじゃん!あたしが高校も行かないで毎日働いて、こいつの塾代や小遣いのために色々ガマンしてんのに!こいつは何一つ不自由ない生活をしてるのに!!!」


・・長女は長女なりの鬱積したものがあるのだろう。
我が家の長女も、次女と5歳も離れているので似た様な事を私に向かって吐きつけることがある。が、今は問題点はそこではない。


私は長女にも向かって言った。


「あんたにはあんたの人生がある。思い通りの人生を選ぶ権利がある。でも、リサは、リサの人生を生きるために生まれてきたんであって、親やあんたたちを満足させるために生きてんじゃないんだよ。勘違いすんな」


長女は黙ったが、母親はまだグチグチと自分がリサのためにどれだけ肩身の狭い思いをしたか、どれほど苦労しているか、を語っていた。


警官が私に、「どうしますか?」と聞いてきた。


リサの母親も、


「どうすれば許してもらえますか・・?」


と言ってきたが、まだ謝罪の言葉をリサからも、リサの母親からも聞いていない。それを指摘しようかどうかを迷ったが、言わなかった。
「謝ってください」といって口先だけの謝罪などいらなかった。そんなもので解決はしない、ということを知っていた。


私はまず、すがるような思いを込めて、リサの手を握り締めて話しかけた。


「リサちゃん、おばさんはとても悲しい。○○(次女)も悲しくてたまらないよ。○○は最後まで、リサがそんなことするはずがないって信じてたんだよ!リサのこと、ずっと友だちだと思ってたから。私たちの悲しい気持ち、わかる?わかってほしいよ、大切な人に裏切られた気持ちを・・」


リサはぷるぷると小刻みに震えだし、顔を上げて一つぶだけ涙を流した。


「私・・・・・もう直らないんです!少年院でも警察でもどこでも行きます!私は死んだ方がいいんです!もう生きていたくない!」


リサは叫んで、頭を抱えてうずくまった。
わずか11歳の子どもに、「生きていたくない!」とまで言わせる母親。


その母親は


「こいつはもう山奥の施設か少年院にブチこんで、一生出られないようにするしかないないと言う。


「もう二度と○○ちゃんとは遊ばせませんので、家にも行かせませんのでどうか許してください。お願いします」


リサの母親と、祖母が頭を下げた。


「二度と遊ばせないとか対症療法でなく、根本的な解決を私は望みます。どうしてこんなことをしてしまうのか、専門家に相談してみるとか・・・。とにかくめんどくさがらずにリサちゃんと家族の皆で話し合って欲しいです」


私は精一杯思うことをその場では言ってみた。
しかし、数時間見ていて、リサの母親や姉たちの様子から、居場所がなくグレることもできない中途半端なリサの存在が見えてきたような気がした。


ふと後ろを振り向くと、今までに見たことのないような悲しそうな顔をした次女が、呆然と立ち尽くしていた。
次女は、最後までリサを信じていたかった、一番の被害者である。
いつもノー天気な次女の、あんなにも悲しそうな顔を見たのは、そのときが初めてだった・・・・。


続く・・・・

  


2013年03月03日

傷だらけの子供たち【第四話 真実と叫び】

リサの荷物を確認させてもらう・・・ということに、この母親が同意するかどうかと思ったが、意外にもあっさり同意した。


「いいですよ、はっきりさせましょう!」


警官が「じゃあ僕らは外で・・・」と言うと、


「いいえ、立ち会ってください」


と言った。覚悟はできているように見えた。


リサはまだ喚いていたが、家の中にいるリサの姉たちももう黙っていられない!と言った感じで、口汚く怒鳴り散らしていた。


「さっさと証拠見せてやればいいんじゃん!」
「もういい加減にしろよ!」


いい加減にしてほしいのはこっちである。が、私は黙っていた。


じゃあ、といってリサが先頭に立って家の中に入っていって、それに私も警官も続いた。入ろうとするときに、リサの祖母がうなだれてダイニングテーブルに座っていた姿が視界に入り、一瞬だけ戸惑った。


「早く入って!証拠隠されたらどうしようもなくなってしまうから!」


警官が私の背中を突いて小声で囁きせっつかれ、はっと我に帰った。


リサが今日持っていたリュックを持ってくるように、と警官とリサ母が言い、奥の和室に通された。ベビー布団が隅に敷いてあって、赤ん坊のおもちゃがいくつかあるが、わりとこざっぱりと片付いている。それほど乱れた生活をしているようには見えなかった。


リサの姉(長女)がピクニックシートを敷き、その上に荷物をすべて出すように言ったが、リサはまだなんとかこの場を逃げ切ろうと足掻いていたようだが、もう言うとおりにする以外なかった。
リュックの中の荷物を、ひとつひとつまさぐり、タタミの上に置いていく・・
塾の宿題だろうと思われるプリント・・ペンケース・・・・・




私はこの期に及んでまだ愚かしいことを考えていた。
ここで証拠が出てこればお金も返してもらえるしラッキー!
証拠がでなければ、逆に訴えられる可能性アリ・・・だ・・。


今までの経験上、こういった手癖の悪い人間が、自宅に証拠を持ち帰る可能性は低いのではないか?と危惧していたのだ。状況証拠からして、リサが犯人(と言ってよいのかどうか随分悩んだが、解りやすくするためこう言わせてもらう)であることは間違いないが、証拠が出なければどうしようもできない・・・。
リサはまだ当時小学6年生で11歳、14歳未満の児童は、親の許可が得られない限り、厳しい取調べをすることができないのだ。


姉がその様子に相当イラついたようで、リサの手からリュックを引ったくりとりあげ、中身をザーーっとシートの上にぶちまけた・・瞬間、乱雑に重なったノートとプリントの間から、茶色のお札がひらりと舞った。
私も、警官も、リサの母親も姉たちも、それを見逃さなかった。


「なんだよ!この一万円札は!!!」


リサの母親が怒鳴った。
同時に目に入ったのは、可愛いキャラクターのポーチ、この年齢の女の子なら誰でも持っていそうな、小物だった。私の目は釘付けになった。警官もそれを見逃さなかった・・・。


「ちょっとこれ見せてね」


警官がさっと取り上げ、ファスナーを開けたら・・・


無造作に重ねたまま折りたたまれた一万円札が数十枚入っていた。
リサは・・・もう観念するしかなかったと思う。


「おーおーよくもまぁこれだけの大金盗ってここまで人を嘘つき呼ばわりできたもんだなぁ?この金は誰のだ?うん?」


警官は、それまでと違って途端に厳しい顔つきになり、言葉もきつくなった。リサはうつむいて黙っていた。


次の瞬間、長女とリサの母親が、リサに飛び掛り、髪をわしづかみにして引きずり回し、蹴り倒した。一瞬で私は悟った。


「こいつらは人を殴りなれている。日常的に暴力を振るっている!」と。


反射的に私はリサをかばい、抱きしめた。


「やめてください!殴らないで!」


ガスッ・・・・


鈍い音とともに、鈍い痛みがわき腹に走った・・・。
リサの姉がリサを蹴ろうとしていたのに、私が抱きかかえてしまったので勢いが止まらず、私のわき腹に思い切りケリが入ってしまったのだった。


リサの姉も母親も、一瞬フリーズしたが、逆切れして


「関係ないんだから引っ込んでて!こいつは殴って解らせなきゃだめなんだよ!どんなに言って聞かせても何一つ不自由させてないのに、手癖の悪さは治らない!他人のお金にまで手を出すなんて!!!」


私はリサ姉とリサ母に冷たい目を向けて、低い声で静かに言った。


「関係ないわけねえだろ?あたしは当事者なんだよ!被害者なんだよ!誰に向かってもの言ってんの?お前らこそふざけんなよ?」


めんどくさがりやの私が、一度怒ると手が付けられない状態になってしまうのは自分でもよくわかっていた。しかし、この場は少なくとも90%以上のパワーで立ち向かわなくてはいけないな、と判断した。


続く・・・・・・

  


2013年03月02日

傷だらけの子供たち【第三話 開いた扉と現実】

リサの家は、広い通りに面した大きなマンションの8階にあった。


間取りは3DK,築年数も浅く小奇麗な感じ。
その3DKの部屋に、いったい何人が暮らしているんだろう・・?と前から不思議には思っていた。


家族構成は、


●リサ祖母(リサ母の母)
●リサ母
●リサ叔母(リサ母の妹・独身)
●長女(リサ姉・1)17歳(高校へは行かず家計の為に働いているらしい)
●次女(リサ姉・2)14歳(中2・主に子守や家事など担当)
●三女・リサ(本人・当時11歳)
●長男(リサ弟) 推定1歳ちょっと・・・


父親は関東の人で、1人関東に残って仕事をしているそうだ。
リサが小学校を卒業したら、関東の父親のところへ引っ越すことが決まっているのだと次女から聞いたことがあったが、本当なのかうそなのかはわからないしどうでもいい。
まだこんなに小さい長男がいるってことは、それほど夫婦仲が険悪というわけでもなさそうだな、とも思った。


ひしめき合い7人が暮らすこの家で、リサはどんなな存在だったのかなぁ、と思いをめぐらす小さな出来事がコレまでにも何度かあったのだ。
次女は、その日あった出来事を、「もー黙って静かにしてお願いします」というくらいにぺちゃくちゃしゃべりまくる子どもだ。その様子を見ていたリサが、


「○○、いつもそんなにマーマーとしゃべるんだ・・・?うち、マーマーともねーねーたちとも口きかんよ~」


と言っていたのを聞いて、少し驚いた記憶がある。
あれだけの大家族の中で、三女として生まれ、目に入れても痛くないほど皆から可愛がられている小さな弟がいて、自分の存在をどう感じて、どんな日々を送っているのだろう・・・と勝手な妄想をしたりもした。


      **************続き*************


インターホンを押したのと同時に玄関ドアがバッと開いた。
玄関のたたきに、はだしでリサが仁王立ちでいる。奥のほうで長女がなにかを怒鳴っている声が聞こえた。


リサは私があいさつもろくにしないうちに、何の前触れもなくいきなり叫びだした。


「私、今日は○○(次女の名)とは遊んでません!遊びに行ってません!だって私は今日、塾に行ってたんですから!言いがかりをつけないでください!」


目が点になるというのはこういうことか、と思い、不謹慎だがあまりのことにプッ!と吹き出してしまった。


そばには赤ん坊を抱いたリサの母親がいる。
リサは、一生懸命母親に対して、アピールしようとしていた。


「私はうそついていない!うそつきは私ではなくて○○とおばさんなんだよ!お母さん私を信じて!」


少し悲しいようななんともいえない気持ちになったが、落ち着いて、じっとリサの目を見据えて、口を開いた。


「リサちゃん、おばさんはね、○○(次女)のことがとても大事なの。○○のお友だちであるリサちゃんのことも同じように大事なのよ。そんな大事なお友だちの顔を見間違えるなんてありえないのよ」


私は長年の接客業と営業職のせいで、一度見た顔、聞いた声、名前は絶対に忘れないし間違えないという特技がある。ましてや、当日のほんの数時間前に見た子どもの友だちの顔を忘れるほどモーロクはしていないつもりだ。


しかし、リサは、通路の隅のほうにいた次女に向かっても叫んだ。


「私は今日あんたと遊んでないじゃない!なんでそんなうそをつくの!?このうそつきーー!!!!!」


私だけでなく、次女までもうそつき呼ばわりしてわめき散らすリサの姿を、もうなんというか、哀れとしか思えずしばらくじっと見ていた。


リサの母は、奥にいる長女たちに赤ん坊を渡すと、ツカツカと玄関にやってきて、リサの胸座を掴み一昔前のヤンキーのように(失礼!)ドスのきいた声で怒鳴りつけた。


「お前○○とは去年から遊んでないって言ったのに、うそついて何度も何度も遊んでるんじゃないか!しかもまた塾さぼりやがって!どんだけうそつきゃ気が済むんだお前は!※sdfghjjkl;(聞き取り不能)」


母親に怒鳴られ罵倒されまくってもリサは必死にうそを突き通そうとした。


「私は行ってない!何も知らない!うそはついていない!」と・・。


ちなみにこの時点で夜の10時過ぎである。
集合住宅なのである。
ラチがあかないとじっと見ていた警官二人がそばにやってきた。
リサの母親に向かって、口火を切った。


「お母さん、リサちゃんの持ち物をあらためさせてもらってもいいですかねぇ?本人はどんなことをしてでもうそを突き通したい理由があるみたいだけど、そのへんは置いといてですね、リサちゃんの身の潔白が証明できればバンバンザイですし、ね?」




「ちなみにいくらなくなったの?」と聞いてきたリサの母親に、金額を告げると腰を抜かしていた。2年半かけて貯めてきた大事なお金、だったということも伝えた・・。




続く・・・・・・・

  


2013年03月02日

傷だらけの子供たち【第二話 警察と現実への入口】

「リサんちの電話番号?なんで」


深呼吸して、覚悟を決めて私は次女に告げた。


「あのね、財布の中のお金がすっかり抜き取られてるの。リサが来る前まではあったから、知らないか聞いてみようと思って」


「ママ、リサのこと疑ってるの?リサは友だちなんだよ!?」


「色んな可能性があるからね、ひとつひとつ確かめるんだよ」



次女は、涙ぐみながら怒り、私をなじった。
ひどい、最低だと。


リサの自宅の電話番号を聞き出し、かけてみた。


本人が出た。


「私、○○(次女)の母です。こんばんは、リサちゃん、お母さんいますか?」


リサ「はぁ・・・・?いませんけどぉ・・」


背後でテレビと複数の人間の話し声と笑い声がする。
明らかに彼女は嘘をついている。


「お母さんはまだお仕事?仕事場の電話番号わかる?」


リサ「私知らないんです~あの~何の用ですかぁ~??」


リサのお母さんが経営する店が同じ町内にあることを、私も次女も知っている。リサは嘘を言っている。これは完全に「クロ」だな、と確信。


らちがあかないので、私は一度電話を切り、警察に電話をした。
5分ほどで制服を着た警官二人が自宅に来て、事情をこと細かく説明し、外部からの侵入跡がないかどうかを調べてもらった。


警官A「猫・・・・いますか・・???」


「え・・?あ、はい。今ちょっと隠れてますけど飼ってます(笑)」


警官A「猫ちゃんの足跡以外見つからないですね~。その子で間違いないですよ。もうこれは状況から見ても間違いない。手癖の悪い子ってのは、一度味をしめると何度も何度も繰り返すんです」


・・・・・・・やっぱりなぁ・・・どう考えてもそうだよなぁ・・・


警官A・B「その子の家に直接行ってみますか?」


「もし証拠が出たら、親に賠償請求することはできるんですよね?」


私は正直言って、お金さえ戻ってこればよいとこのときは思っていたので聞いてみた。


警官「もちろんです。同行しますよ」


ということで、リサの自宅に向かうことになった。


リサの自宅は、少し離れたところにあった。
次女は、一度だけリサのマンションまで行ったことがあるが、上がったことがないのでマンションの何号室なのか知らないのだった。
またリサの自宅に電話をしなくてはならなくなった。


「リサちゃんの家は何階の何号室?おばさん下にいるんだけど」


この期に及んでもまだリサは、自宅の住所も何号室なのかも、わからない、と言い張るのだった。
電波状況が悪く一度電話が切れたので、次女の携帯で掛けなおす。
すると、次はリサの母親が出たようだ。


「なんなの!あんたはさっきから何度も何度も!」


ヒステリックな声が耳に突き刺さった。
想像通りの母ちゃんだな・・と思った。


「実はですね、今日リサちゃんがうちに遊びに来ててお金がなくなったんです。それが今日で3回目で。警察に調べてもらった結果、外部からの侵入痕は見当たらないということですので、ひとつひとつ可能性を探るために今日ウチに来た人みんなの話を聞かせていただいてるんですね。これからお邪魔しても良いでしょうか?」




するとリサの母親は、激昂して甲高い声で叫んだ。


「はぁ?うちの子今日はお宅の子と遊んでないって言ってるんだけど?だいたいお宅の子が塾をさぼって遊ぼう!ってそそのかした前科があるから、お宅の子と遊ぶのを禁止してたのよ。うちの子はあたしのいうことには逆らわないんだから、何かの間違いじゃないの?」




・・・・・・・。だめだこの母親は・・・。
人の話を聞かない。聞く力もない・・・。
リサは、以前にもたびたび塾をさぼって遊んでいた言い訳に、次女にそそのかされたのだと言っていたらしい。次女に確かめると、意外な答えが返ってきた。


「リサが塾に通ってることも知らなかったよ、知ってたら誘わなかったし」


とにかくリサの自宅が何号室なのかを聞いて、私と次女、警官二人の4人でエレベーターで上がっていった。


だいたいのことは、めんどくさいので適当に流してしまう私だが、立ち向かうと決めたときは、何があろうと一歩も引くつもりはない。


警官二人と次女には、階段のほうで見ていてもらうことにした。
私は深呼吸をして、インターホンを押した。


続く・・・・・

  


2013年03月01日

傷だらけの子供たち【第一話 娘の友人と消えたお札】

※これは2007年に母子家庭の母親が過去にあった実際の出来事を克明に記した記事である。



次女の小学生時代の友だちで、盗癖のある子がいた。


我が家に遊びに来たときは、非常に礼儀正しく、大人びた物言いをする女の子だったが、私にはなにかひっかかるものがあった。


手始めに、次女の小物がちょくちょく紛失するようになった。
次女は、私と同じく「片付けられない女」なので、整理整頓を頑張ろうね、といって流していた。


そのうち家にある現金がなくなるようになった。
最初は私の財布ごと、キャッシュカードもクレジットカードも免許証も全てが一気になくなって、非常に困ったことになった。
免許証やキャッシュカード類などの再発行のためにあちこち駆けずり回ったために休んだ日給、時間、再発行のための手数料数万円と被害額は多大なものだった。


私は、そのあたりで「たぶん・・間違いないな・・」と思い始めていたが、証拠がないのと、まだ確信を持てなかったため、警察に紛失届けを出した。


2度目は、二日酔いでだらしなく眠っている間に、財布の中の現金だけが抜き取られる、という事態が起こった。被害額は3千円。


驚いたことに、このときは私が眠っているすぐ横にバッグを置いていたにもかかわらず、現金だけを綺麗に抜き取られていたのだった。


「あぁ、この子は手馴れてるな。あちこちでやってるな」


と確信した。
2度目の盗難があってから一月も経たぬうちに、3度目がやってきた。
とある家電を買い換えるため、25万円という大金を現金で持っていたことがあった。その日、問題の盗癖のあるリサ(仮名)がいつものように我が家に遊びに来ていた。


我が家は昔ながらの団地のような造りのアパートで、キッチンの真横にくぼんだスペースがあり、そこにPCデスクとPCを置き、椅子もある。
長女は専用PCを持っているが、私と次女は共用で使っている。
私は、帰宅するとPCチェアの背にカバンを掛ける習慣があった。
いつも居間代わりに使っている和室からは、キッチンもPCデスクも全てが見通せるが、私は帰宅して30分ほどうたた寝をしてしまった。


リサ(仮名)が帰ったのは6時。
私はその日早退して5時には自宅にいて、一切外出はしていないし、帰宅してすぐ銀行から下ろしてきた現金を数えていた。


リサが帰ってすぐに夕飯の買い物に出かけ、財布を開けたら、5万円だけがすっぽりなくなっている。残りの20万円が入った銀行の封筒を開けたら、そちらももぬけのカラ・・・・。


「やられたな・・・・」


ため息が出た。
もう黙っているのもこれまでだな、と判断し、次女に言った。


「ね、リサが来てた時あんた席はずした?」


「ううん、あ、一回だけトイレ行った」
と次女は答えた。


「リサの家の電話番号教えて」



続く・・・・・